昨年の米大統領選をきっかけに爆発的に拡散した

昨年の米大統領選をきっかけに爆発的に拡散した「フェイクニュース」が米国社会を揺らしている。フェイクニュースを信じた男が、ピザ店で発砲する事件まで起こしたが、逮捕され、有罪判決を受けた男の故郷を訪ねると、犯罪とは縁のなさそうな人物像が浮かび上がってきた。毎日新聞米州総局(ワシントン)の清水憲司記者が報告する。【毎日新聞経済プレミア】

 ◇偽ニュースを信じた男がピザ店で発砲

 米大統領選がトランプ氏の勝利で決着した翌月の昨年12月4日。28歳の男が自宅のある米南部ノースカロライナ州から約500キロ離れた首都ワシントンへと車を走らせていた。「私たちには自分を守れない人々を守る責務がある。いつの日か理解してほしい」。娘2人に宛てたビデオメッセージを撮影した後、男はワシントン市内のピザ店「コメット・ピンポン」に押し入り、ライフル銃を発砲した。

 幸いけが人はなかったが、フェイクニュースの拡散を象徴する「ピザゲート事件」として全米を驚かせた。男は「ヒラリー・クリントン陣営が児童の人身売買に関わっている」というフェイクニュースを信じ込み、子供たちを助けるつもりだった。

 エドガー・ウェルチ被告は今年6月に禁錮4年の実刑判決を受けた。彼が育ったのは、ノースカロライナ州ソールズベリー。幹線道路にファストフード店が建ち並び、典型的な米国の田舎町に見えるが、多くのキリスト教の教会が次々に現れる。

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 ◇娘2人を持つ熱心なキリスト教

 エドガー被告は娘2人を男手一つで育て、毎週日曜日には教会に連れていく熱心なキリスト教徒だった。知人の話や裁判資料によると、大学で映画を学んでいたが、2010年、ボランティアとして大地震直後のハイチに向かう。3週間の期限が近づいた頃、「子供を3、4人引き取りたい」と母テリーさんに電話した。実現はしなかったが、帰宅すると自分の持ち物をほとんど売り払い、子供たちへの寄付に充てたという。

 ホームレスの人を見かけると、車をとめてお金を渡すのも日課だった。その後で「お金がないからガソリン代をくれないか」と言い、父ハリーさん(70)を驚かせたこともある。

 ピザゲート事件の発端は、暴露サイト「ウィキリークス」が流出させたクリントン陣営幹部のメールにあった「ピザ」の言葉だった。米メディアの分析によると、ネット掲示板では「チーズ・ピザ」が児童ポルノの隠語として使われており、匿名投稿者たちの妄想をかき立てた。オバマ前大統領の支持者が経営するピザ店「コメット・ピンポン」が次第にクローズアップされた。

 無責任な連想ゲームは、繰り返されるうちに「ニュース」としてネット空間に拡散し、エドガー被告が聞いていたラジオ番組でも取り上げられた。3日間悩んだ末に、エドガー被告は自ら事実を突き止めようとピザ店に向かった。

 父ハリーさんにはエドガー被告が「フェイクニュースの犠牲者」としか思えない。家族ぐるみで親交があった女性は「人々が信じてしまうフェイクニュースはたくさんある。それが悔しくてたまらない」と憤る。

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 ◇第三者組織による偽ニュースのチェック

 フェイクニュースに、社会はどう対応しようとしているのか。「フェイクニュースの拡散を助長した」と批判を受けたフェイスブックマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は6月、フェイクニュースが社会の分断を広げる危機感から、事業理念を「オープンでつながる世界」から「世界の結束を強める」に変更した。

 ニュースの真偽をチェックする第三者組織と協力し、フェイスブック上でフェイクニュースを共有しようとすると「Disputed(真偽が問われている)」の表示を出して共有されにくくする。広告収入が得られないようにして金銭的なうまみもなくす。

 ただ、フェイクニュースのサイトを運営するロバート・シュルツさん(34)は「サイトの閲覧数に全く影響は出ていない」と話す。第三者組織にチェックされると、かえって注目が集まり、閲覧数が増えることもあるという。シュルツさんは「一部の人々はフェイクニュースを信じてしまう。でも、それはいつものことで、彼らには教育が必要だ」と突き放す。しかし、エドガー被告の行動を考えると、それが処方箋と言えるだろうか。

 フェイクニュースを取り締まれば良いという問題でもない。コロンビア大ジャーナリズム・スクールのジョナサン・オルブライト研究部長は「情報をふるいにかけようとすれば、公にしたくない情報を表に出させない言論統制にも使える」と指摘する。フェイスブックが最終的な判断を読者に委ねるのは、言論の自由に関わる問題だからだ。